僕が作品に表現する動物は、いつも誰かが寄り添っています。それは親子だったり兄弟だったり友だちだったり、そんな家族や絆をテーマにした作品を描いています。動物にも人間と同じように、子供を思い、兄弟を思い、仲間を思う気持ちがあります。 それは人間の前では警戒して見せない姿ですから、僕たちはつい動物を敵視してしまったり、特別な存在のように見てしまうかもしれません。でも人間と同じように家族を思う姿を知り、自分たちの親子のあり方や子供への愛情と照らし合わせる事が出来たら、きっと動物について見方が変わり、一緒に生きていくことが出来ると信じています。

西野健太郎
"木の記憶" 作品ができるまで、、、

最初に木の形や年輪を見て、触って、においを嗅いで、その木が何十年、何百年見守ってきた動物たちの記憶をイメージします。年輪に沿って木を切り抜いた後、切り抜いた形に作ったキャンバスに、アクリル絵の具、エアーブラシや筆を用いて手描きで描いています。動物たちが人間の前では警戒して見せないような家族の姿を、木の前では安心して見せていると思います。家族をテーマに、そこに生きる“いのち”を表現したいと思っています。 ここではフクロウを描いた『木漏れ日』の制作過程を載せています。
色は一度に塗るのではなく、全体をみながら薄く色を塗り重ねていきます。絵の具は原色をそのまま使い、水彩画のように下の色を生かしながらキャンバス上で色を重ねていきます。色の塗り重ね方によって、同じ色でも様々に変化します。失敗をすると最初からやり直しになってしまうため、経験が頼りです。1作品に数ヶ月かかる製作は天候にも左右されます。
背景のベースが出来上がった後、動物や木々、葉の下地を塗っていきます。筆で塗る場合もありますが、大きな型紙を用意してエアーブラシで吹き付ける場合もあります。この時点で、作品のだいたいの構図が見えてきます。
動物の毛並みを描くときには、毛並みの流れをイメージしながら、絵の具を筆で一本一本塗り重ねていきます。柔らかい毛並みを表現するために、薄めた絵の具を何度も塗り重ねていきますので、一番時間がかかる行程です。
筆で描いた毛並みの上から、エアーブラシを吹き付け、柔らかい毛並みを表現していきます。動物によって毛並みの質感の違いを出すため、エアーブラシと筆のタッチの割合を変えたり、交互に繰り返し塗り重ねたりします。
エアーブラシは上についているカップに、水で溶かしたアクリル絵の具を入れて、コンプレッサーで圧縮された空気の圧力で絵の具をスプレー状にする道具です。ボタンを押すと空気の量が調節でき、手前に引くと絵の具の量が調節できます。絵の具の色を変える時には、バケツに入った水の中にエアーブラシを入れて、中をきれいに洗浄します。エアーブラシを使う時には、換気設備の整った場所で、特殊なマスクをして絵の具を吸い込まないように気をつけます。
下書きをもとにカッターを使って型紙を作っていきます。その型紙をキャンバスにあてて、その上からエアーブラシを吹き付けて色を重ねていきます。そうすると色が周りに飛び散らずにきれいに残ります。1作品で数十枚の型紙を用意しますので、とても時間がかかります。
目の光を最後に入れて完成です。目の光の位置によって、目線や感情が表現できます。動物にいのちを吹き込むという感覚で緊張するところです。
最初に背景の下地をエアーブラシを使って何度も塗り重ねていきます。野外で描く理由には、エアーブラシを使うからということもありますが、自然の光と空気を感じながら描くことで、作品の中に表現する自然をよりイメージしやすいからです。また、発色のいいアクリル絵の具は、日光の下で鮮やかに見え、正確な色が把握できます。
作品の長さに木を切った後、電動ノコギリを使って年輪に沿って木を切り抜いていきます。トリマーを使って作品を入れる溝を掘り、切り抜いた形を別の木に写し取って作品を描くキャンバスを作ります。
「木漏れ日」(フクロウ)
260.0 × 45.0cm
アクリル、キャンバス
桐の木の記憶、2012年作
アクリル画作品ができるまで、、、

画材の中で一番多く使うのはアクリル絵の具です。ジグソーパズルの原画なども四角いキャンバスに、アクリル絵の具、エアーブラシや筆を用いて手描きで描いています。一作品仕上げるのに数週間〜数ヶ月かかります。ここではホワイトタイガー親子を描いた『家族の時間』の制作過程を載せています。
最初に背景の下地を薄く溶かしたアクリル絵の具をエアーブラシを使って何度も塗り重ねていきます。絵の具は原色をそのまま使い、薄い色から濃い色の順番で色を重ねていきます。後戻りのできない、制作の中で一番緊張するところです。特に青は最も難しい色です。
背景のベースが出来上がった後、ホワイトタイガーの下地を塗ります。背景と同じ色を動物の下地に使います。ここまでくると、これから毛並みを描く長い行程前で一息ほっとするところです。
動物の毛並みを描くときには、毛並みの流れをイメージしながら、絵の具を筆で一本一本塗り重ねていきます。柔らかい毛並みを表現するために、薄めた絵の具を何度も塗り重ねていきますので、この作品では毛並みを筆で描く行程だけで2週間以上を費やしています。作品の大きさによって筆を使い分けますが、1作品に使う筆はこの細い筆一本です。
筆で描いた毛並みの上からエアーブラシを吹き付け、柔らかい毛並みを表現していきます。筆と同じように、毛並み一本一本に色を吹き付けていきます。同じ動物でも、親と子の毛の質感の違いがあります。骨格などの動きによっても毛並みの流れが変わってくるので、実際の動物を観察、スケッチしながら描いています。エアーブラシはとても繊細な道具で、1作品描くごとにエアーブラシの手入れは欠かしません。特に絵の具が出る先端はよく絵の具が固まって出にくくなるので、緻密な表現をするためにきれいに保っておきます。
目の中にも動物によって違う模様などがあり、丁寧に描いていきます。目だけで一日は費やします。作品に命を吹き込む気持ちで、最後に目の光を入れて完成です。
「家族の時間2」(ホワイトタイガー)、50.0 × 72.7cm、アクリル、キャンバス、2016年作
木炭画作品ができるまで、、、

アクリル絵の具の次に多く使う木炭を使った作品です。アクリルの鮮やかな色彩とは対象的に、モノクロの静けさの中にある動物の息づかいや目の輝きなどを表現しています。ここではオオカミ親子を描いた『家族の詩』の制作過程を載せています。
パステルペーパーにオオカミの形に木炭をのせていきます。動物の毛の流れを考えながら、強くこすりつけずに薄く何度も重ねていきます。下書はほとんど使わずに描きます。
指で木炭を紙にこすりつけてオオカミの形がうっすら見えるぐらいまで黒くしていきます。
練り消しゴムを使ってオオカミの毛並みを一本一本消していきます。一本消すごとに練り消しゴムを練り直してとがらせて消していきますので時間がかかります。アクリル画の場合は毛一本に何度も色を重ねますが、木炭の場合は逆に消す技法なので、より集中力がいります。その後、指でこすったりしながら柔らかい毛並みに仕上げていきます。

一日に進められる面積はわずかです。オオカミの白い息づかいは指で木炭を消したりして描きます。最後に目に光を入れて完成です。
「家族の詩」
51.0×39.6cm
木炭、パステルペーパー、2013年作